パルミラ遺跡を行く・朝
- シルクロード
- 平山 郁夫
- 2006
- 紙本彩色
- 171.0×364.0cm
晩年の平山郁夫はシルクロードの砂漠を旅するラクダの隊商(キャラバン)を描いた大作「大シルクロードシリーズ」を相次いで発表した。それは画家が終生描いてきたシルクロード絵画の集大成であり、本作はそのうちの代表作。シリアのパルミラ遺跡を背景にラクダの隊列を朝陽のオレンジ色と月夜の群青色であざやかに対比している。近年、過激派組織による破壊や、シリア軍による奪還が報じられているパルミラ遺跡だが、いにしえの昔、パルミラはシルクロード交易の中継地として栄華を極めたオアシス都市であった。
3世紀後半、ローマ支配からの独立を企てたため、街はローマ軍によって破壊され、反乱の首謀者である女王ゼノビア(240〜275年頃)は捕らえられ、金の鎖に繋がれローマの町を引き回された。平山はこの悲劇の女王ゼノビアに敬意を示すため、ラクダに乗る人物に(先導役の男性を除いて)黒いベールをかぶった女性ばかりを描いたという。平山が描き続けた砂漠とラクダの隊商の幻想的なイメージは、悠久の時を越え、シルクロードを通じて行われた人々・文物・文化の交流の象徴であり、平和への祈りそのものであった。