平山郁夫絵画作品
自伝・デッサン・その他

前田青邨先生 白頭模

  • その他
  • 平山 郁夫
  • 1991
  • 紙本彩色(素描)
  • 31.5×24.0cm

落選

青邨先生も厳しい方だった。無給といえども金のための絵を描いてはいけない、忙しいだろうが日々の精進を怠るな、と最初にくぎを刺された。一度、博物館に鎧のスケッチにお供した時のことだ。いったん始めたら、わき目もふらずに描き続ける。丁寧に何枚も何枚もスケッチを重ね、最後に不必要なものをすべて抜くようにぎゅっと決める。一本の線の内側にいかに膨大な努力が隠されているものか、仕事ぶりを目の当たりにして驚いたものだ。先生の勧めもあり、その年秋の日本美術院の公募展に出品した。卒業制作と同じように瀬戸内海の風景を背景にした人物画である。夏期講習などがあって描く時間が少し足りないなとは思ったが、青邨先生がついているから大丈夫だろうと踏んでいたところ、見事に落とされた。甘かったのである。ボクシングでいえば、第一ラウンドの何秒かでノックアウトされたようなものである。この痛みは終生忘れることがない。