原爆ドーム
- その他
- 平山 郁夫
- 1991
- 紙本彩色(素描)
- 31.5×24.0cm
長い一日
夕方、山を下りた。自力で実家にかえるほかにしようがないと思った。爆発の瞬間に小屋に入ったのが幸いし、これといった外傷もなく、痛むところもなかった。とにかく尾道の方、東の方角を目指さなくてはいけない。そのあとはどこをどう歩いたものやら。すでに真夜中を過ぎていたのではないだろうか。線路に無人の列車が止まっていた。疲れ果てて歩く元気も失せ、座席に横になった。あとはどうにでもなれという心境だった。長い長い一日だった。ゴトン、ゴトン、という振動で目が覚めた。汽車は動いていて、車内はぎっしり満員になっていた。白み始めた窓外に目をやると、どうやら呉線を走っているらしい。間もなく停車した駅は、須波だった。須波なら生家のある生口島は目の前だ。駅に降り立つと島がかすんで見えた。