彫金の仕事をする清水南山
- その他
- 平山 郁夫
- 1991
- 紙本彩色(素描)
- 31.5×24.0cm
進路
今の竹原市忠海町にある忠海中学に転校することになり、母方の祖母の兄で彫金家の清水南山の疎開先に下宿することになった。大伯父の南山はこの年七十歳。母校の東京美術学校で彫金科の教授を長らく務めていたが、退官して故郷に避難してきたのだ。久しぶりに会った大伯父は、相変わらず質素な暮らしぶりで、孤高を守る純粋な芸術家という印象が、原爆のショックでふぬけになっていた目にはとても新鮮だった。学校から帰ると、畑で汗を流す大伯父を手伝うのが日課になった。畑で二人になると、大伯父は岡倉天心や菱田春草の思い出話や、芸術論をポツリポツリと語って聞かせた。そうこうして四年になり、いずれは法科か経済に進むつもりで参考書を買い込み、補習も受けていた。大伯父は黙って見ていたが、いよいよ願書提出という段になって、 「美術学校の日本画科を受けろ」と突然言い出した。「なぜ初めから美校に行けと言わなかったのです」と問い詰めると、大伯父は悠然と答えた。「お前が小さい時から絵が好きだったのは知っている。しかし、腕はあっても頭がないと早く行き詰まる。そういう例をいくらもみてきた。だからまず、高校に入れるぐらいの学力をつけてもらいたかったのだ」と。