法隆寺五重塔
- その他
- 平山 郁夫
- 1991
- 紙本彩色(素描)
- 31.5×24.0cm
古都の美
法隆寺の金堂壁画が焼けた。思いがけない知らせが飛び込んできた。美校の教室には、えっ、まさか、というどよめきが広がった。昭和二十四年一月初日のことだ。金堂では当時、安田靫彦先生の総監修のもと壁画の模写事業が進められていた。いずれは学生にも現場を見せてくれるということになっていた。それだけに落胆は大きかった。この年の確か秋に、奈良への古美術研究旅行が再開された。それまで焼け跡ばかり見てきた目には、草木濃い静かな古都のたたずまいはみずみずしかった。古都奈良との初めての出会いは、心の奥深いところに確かな刻印を残した。前の年の暮れに亡くなった大伯父の言葉がしきりに思い出された。古典の勉強と自然から学ぶこととを忘れてはならないと。何を描くべきか、迷いの中から見えてきたのはこんな方向だった。