平山郁夫絵画作品
自伝・デッサン・その他

B29から落下傘投下を目撃する

  • その他
  • 平山 郁夫
  • 1991
  • 紙本彩色(素描)
  • 31.5×24.0cm

青空

広島の空はその朝も青く晴渡っていた。前夜来、警戒警報や空襲警報が繰り返され、七時十分にも警戒警報が発令されたばかりだったが、緊迫した戦況などうそのような好天だった。ほどなく警報は解除された。それを確認してから勤労動員先の陸軍兵器補給廠へ向かった。兵器廠での私立修道中学三年生の仕事は、弾薬箱用の材木を整理し、搬入することだった。午前八時に点呼を受け、材木置き場に移動したのが八時十二、三分だったろう。五、六人いた同級生たちは小屋に入って、着替えや準備を始めた。何を思ったのか、自分一人だけは外に出てきれいに晴れた空を眺めていた。と、白い飛行機雲を引っ張ったB29が、スーッと上空に入ってきた。警報も出ないしサイレンもない。そして、頭上はるか高いところでパッパッと落下傘が開いた。